前回クリニカルパスと医療の標準化についてお話ししました。
今回はそれを踏まえた上で、医療情報システム(電子カルテ)の機能の1つであるクリニカルパスシステムについてお話したいと思います。
少し長めの記事になってしまいました。すいません。
クリニカルパスシステムを導入するメリット
はじめに、一番言いたいことをお話します。
クリニカルパスシステムは当然ですが、クリニカルパスを電子上で動かすシステムのため患者さんの診療予定を可視化し、医療の標準化を行えるように設計されています。
これはこれでとても素晴らしいのですが、現場で働く医療従事者にとっての最大のメリットは、業務の効率化が行えるということです。
ということで、今回はどういった使い方をすれば業務が効率化できるのかをお話したいと思います。
医師、看護師、コ・メディカル、事務員などの職種に関係なく、抑えておいて損はないと思います。
クリニカルパスシステムってどんなことができる?
前回のクリニカルパスのお話で、クリニカルパスを使用するメリットについて話したけど、覚えてる?
えっと確か、医療の標準化に加え
●チーム医療としての情報の共有を円滑に行える
●標準治療からどれだけ逸脱しているかの確認ができる
●検査内容や薬剤の見直しが簡単に行える
●おおよその医療費がわかるから治療費の目安が提示できる
などがありましたね。
そうだね。これらは医療従事者と患者間での診療行為に対してのメリットだけど、クリニカルパスシステムを導入すると、別の意味でメリットがあるんだ。
それが、事務作業における業務の効率化(時間短縮)だよ。
医師や看護師がしている事務作業ってことですか?
そんなにたくさんあるんですか?
たくさんあるよ。くわしくは後で話すけど
医師 ⇒ カルテ記載、各種オーダー、紹介状の記載…etc
看護師 ⇒ カルテ記載、処置コストの入力、検温入力、書類作成..etc
といったことがあるね。特に医師は大きな負担になっているから、医師事務作業補助者がいる病院も多いよね。
なるほど。診療行為以外のいろいろな入力作業全般ってことですね。
そうそう。で、これらの作業がどう効率化できるかというと
クリニカルパス = 医療行為の内容がまとまっている
ので、クリニカルパスシステムにその内容をあらかじめマスタ(テンプレート)として組み込んでおくんだ。そうすると、使いたいケースが出てきたときにいつでも呼び出せるようになるんだ。
なるほど。オーダリングシステムで言う、医師のオーダーセット(検査などのセット)のようなものですね。
イメージ的にはあってるよ。医師セットと比べて、病院で標準化された医療行為の内容を日をまたいで一気に出せるイメージかな。で、ここからが本題なんだけど、クリニカルパスのマスタを作って運用するメリットについて例をあげながら説明するね。今回も急性虫垂炎を例に見てみるよ。
よろしくお願いします。
急性虫垂炎を例に考えてみる
まず、前提として下記の患者さん来院したとするよ。
診察・検査の結果、急性虫垂炎の疑い。
入院⇒手術の方向となる。
よくある入院のケースだけど、入院が発生すると医療従事者の業務がたくさん発生するんだ。
例えば、どんなことですか?
まず、このケースだと入院に対しての計画書(入院診療計画書)の作成が必要になるね。これは医師を中心に医療従事者が作成するけど、入院後7日以内に作成する必要があるんだ。
他にも医師だと、入院時の検査、点滴、手術等の同意書の取得、看護師への指示(食事内容、安静度、検温関連…etc)
看護師の場合は、入院時アナムネ、看護計画の立案、褥瘡計画、医師からの指示に対する入力…etc
軽くいくつかあげてみたけど、一人の患者さんの入院でこんなにも医療行為に対する事務作業が発生するんだ。
これはかなり大変ですね。
そうなんだよ。前置きが長くなってしまったけど、そういった医療行為に対する事務作業の入力を効率化するためにクリニカルパスシステムは役に立つんだ。
下の図を見てほしい。
あくまでイメージするための図になります。
【クリニカルパスのイメージ例】
前回のお話にでたアウトカム(達成度)のチェック項目もありますね。
そうだね。アウトカムやバリアンスもパスにはかかせないものだからね。それに関しては、冒頭のリンクから前回の記事を見てね。
話を戻すと、さっき上で言ったオーダー内容や観察項目の内容を並べているよ。こういったものがクリニカルパスシステムだと、数クリックで出せるんだ。もちろん元のテンプレートを作成している必要はあるけど、ある程度内容が決まってる入院診療計画書や看護計画の内容も入れ込めるからとても時間短縮になるよ。
これは相当な時間短縮になりますね!
他にもメリットはあって、看護師さんで言うワークシート(To doリスト)のような使い方もできるんだ。この図の場合、説明・指導欄にある、手術・麻酔の説明などがそれにあたるね。終わったらチェックをつければいいからやったかどうかも一目でわかるから漏れが減ると思う。
そういった使い方もできるんですね。パスシステムって万能ですね。
あ、でも必ずしもこの通りにいくとは限らないですね?その場合、全然使い物にならなくないですか?
いいところに気が付いたね。確かに、例えば患者さんの術後経過がこの通りにいかず、点滴や検査のオーダーの内容がたくさん変わったりした場合、このパス内容だと上手く診療行為が行えないよね。そのために患者さんの状態に合わせていくつか分岐するルートを作っておく仕組みもあったりするんだ。
例えば、Aルート・Bルート・Cルートという3つのルートをあらかじめ作っておく。スタートはAルートなんだけど、何かトリガーとなるもの(アウトカムが達成できたかどうかなど)を作っておき、達成できた場合はAルートを続行、未達成の場合はBルートに自動切換え。といったこともできるんだよ。
なるほど。そうすれば、パスが使えなくなって中止してしまうっていうことも少なくなりそうですね。
うん。もちろんこういった作り込みをしっかり行うことが前提になってくるけどね。でもクリニカルパスシステムは各項目のアウトカム統計やバリアンス統計もできるように設計されているから、比較的簡単に見直しができると思う。
よくわかりました。
まとめ
こういった形で、クリニカルパスの医療の標準化に目を向けつつ、事務作業の効率化を図れるクリニカルパスシステムはどんどん活用すべきだと思います。
病院によってはクリニカルパス委員会などの委員会も設置していることがあると思いますので、もしあまり力を入れてない場合は少し見直してみるのもいかがでしょうか?
もちろん、クリニカルパスを作成するのは1職種だけではできないため、医師を中心に医療従事者全員で取り組めていけたら、より良い医療(チーム医療)が提供できるようになるのではないかと思います。
コメント